9.ブルーベリーと光の館
No.74 カールステン・ニコライ 日照計測のための家
ダム湖の近く、松葉荘という名の宿。駐車場にクルマを置き、看板の矢印に従って歩いた、はずなのに、谷への下り坂をいつまで歩いてもたどり着かず。看板まで戻って改めて確認すると、方向が違っていた。作品は丘の上。げっそりとする急勾配の坂をひたすら登る。作品にたどり着いたときには息がぜーぜー上がってしまい、スタンプを押すのも一仕事だった。
作品は、ガラスの大きな玉を持つ機械。「機能的なものは美しい」の典型的な姿である。作品の後には2階建ての白い展望ハウスがある。しんどかったが、ここまで来て登らないわけにはいかない。
二階は窓が開け放たれ、大きなテーブルの上に、たくさんの記録紙が落ち葉のように散らばっていた。
ナカゴグリーンパーク
もと来た道を転がるように下る。クルマを出したところで、また雨が降ってきた。今度もかなり激しい。次の目的地、ナカゴグリーンパークに着いた頃には、すっかり土砂降りになっていた。クルマを適当なところに停め、ビニール傘を差して走って白い小屋を目指す。
No.55 トゥー・ザ・ウッズ ベリー・スプーン
中に入ると、店番のおばさんが迎えてくれた。「どうぞ、雨宿りしていってください」。ブルーベリージャムを売る小さな喫茶店。中には先客のカップルが一組。スプーンに乗った角砂糖をイメージしているのだそうだ。
目玉商品のブルーベリーアイスはちょうど今最後の一個が売れてしまったとのこと。代わりに、ハーゲンダッツのアイスにジャムをかけたのはいかがですか、というので、それをお願いする。「ハイハイ、たっぷり掛けますからね」。声とともに、調理場の奥からもうひとりの女性が持ってきてくれた。
ジャムがとても美味しい。
先客のカップルが帰っていった。「最終日なのに、雨が降って残念」。遠ざかっていく二人を見ながら、店番のおばさんがしんみりとした口調で言う。この店も今日で終わりだと言う。食べながら、店の方とすこし話をする。ふたりともボランティアだそうだ。それでも50日の期間中、2日しか休んでいないとのこと。「だから家の中はもうひっくりかえっちゃって」笑いながらそう言う。出るのは通いのガソリン代程度だとのこと。裏方でこんなに一生懸命支えているんだから、せめて普通のバイトぐらい出てもいいのにと思う。でも収支は厳しいのか。
「私だったら、パスポート代が倍になっても来ますよ」そう話すと、「そうかしらねぇ」となどと言う。ここの集落の風景はほんとうにきれいで、見に来てもらうだけの価値がある。「来てくれてひとはみんな言ってくれますね。ゴミが落ちてないって」。いやそういう意味ではなくて。
「木々や田んぼの姿そのものが、外国の観光地と同じぐらい美しいんですよ」そう言うと、「でも私たちはずっとここに住んでここしか知らないから、これが普通だと思ってるんですよ」と、でも嬉しそうな顔をしてくれた。
雨は小降りになってきた。嫁さんのお土産にジャムを一瓶買い、店を後にする。入れ違いに新しいお客さんも入ってきた。女性二人組み。迷っている二人に「ジャムのせアイス」を薦める声がする。
No.58 斎藤義重 時空
芝生の広大な広場にいろんな作品が散らばっている。車が中まで入れるので、運転しながら廻る。空を指す鉄骨。青空と芝の緑に映える作品だと思うが、あいにくの雨と曇り空が残念だ。
No.59 藤原吉志子 レイチェル・カーソンに捧ぐ~4つの小さな物語
謎のウサギの二宮金次郎。そしてロバ。ユーモラスな光景だけど、近づいてみるとシリアスなメッセージが感じられる。
No.62 PHスタジオ 河岸段丘
丘を登る緩やかな坂道の途中にある、屋根つきのベンチ。そこから眺める河岸段丘の景色。あいにくの曇り空。
No.63 ジェームズ・タレル 光の館
坂道の終点。更にその先、一段高いところに建つ黒い家。駐車場のすぐ横、観光地のお城のように、入場券を売る小さな小屋があり、そこでもぎりのお姉さんにスタンプを押してもらう。
階段を上がって二階から入る。奥から、ピーピーピーと、トラックのバックのような音が聞こえてきた。何かと思い行ってみると、機械式の天窓を開いているところだ。畳の部屋でたくさんの人が寝転んでいる。天井を見ると、正方形の大きな穴、そこに広がる白い曇り空。
前のグループが掃けたので、私も寝転がってみる。白い空に雲の濃淡がするすると流れていく様が面白い。快晴では見られない光景だ。
「ぽつぽつ来たら教えてくださいね。横から見てると判らないですから。」解説員の女性が、詳しく解説をしてくれる。雨が降ったら、部屋が畳敷きだし、機械にも良くないのだそうだ。
「あ、来たみたい」一緒に寝ていた誰かが言う。「閉めてくださーい!」さっきのもぎりのお姉さんの大声が遠くから聞こえる。窓がゆっくり閉まっていく。
トイレや風呂、寝室と、それぞれ光が印象的な部屋が続く。本当は泊まって楽しむのだそうだ。何もないところだが、ここで過ごせたら本当に贅沢だと思う。
No.57 磯崎道佳 3年後に向けた伝言ゲーム(10年プラン)+手作り見張り塔でずいっ~と越後妻有
丘を下って起点に戻る。これは、2000年のときに行われたワークショップの残像。双眼鏡を使った「伝言ゲーム」の跡。そのときの様子が書かれたプレートが置かれていた。とても面白そうだ。
ここから、パーク内の山道に車を進める。
No.64 渡辺正範&ARTNETかわにし 大地の記憶-かざぐるまの道-
公園の敷地内とは思えない山道。そのカーブにそって無数の風車が飾られている。
再び雨が激しくなってきた。
No.65 ドゥ・アーシュ 稜線計画
崖を補強する金網によるアート。雨が激しく、車から降りるのも一苦労。スタンプも水浸しである。
No.66 吉水浩 森の番人
文字をかたどったオブジェ。
。。。雨が激しく、もはやゆっくり見ることができない。ここから先、作品が密集していてスタンプは溜まるけれど、この調子では十分には見られないだろう。そう思い、この先を登るのは断念する。
山を降りる
標識を頼りに細い道を下り国道へ出る。途中、小さな水路があり、赤い水が溢れていた。自然に囲まれているように見えても、今もどこかで開発は進んでいる。
川西地区に別れを告げる。増水した信濃川を渡り、再び十日町地区に戻る。