3.再び山へ
絶対観たいところを予めガイドブックで調べておいて、それを効率よく廻る。旅のオーソドックスなこのセオリーを、今回はあえてそれを無視することにした。地域だけ決めて、そこにある作品をくまなく巡ることにした。
もしかしたら、遠くにある作品を見逃してしまうかもしれない。けれど、気になるものもそうでないものも、何も想定せずすべて見てみることで、予想外の驚きがあるかもしれない。そんな期待をもって廻ることにする。
No.133 吉田明 エターナル
信濃川に近づき、すっかり川幅の広くなった清津川。そこにかかる倉俣大橋という立派な橋を渡って、左岸に出る。橋の下の河原に広がる清津川フレッシュパーク。その奥に置かれた陶の椅子たち。
煤けたところが縄文式土器のようだ。
対岸を再び山の方角に向かう。雨が降ってきた。
No.134 カサグランデ&リンターラ建築事務所「ポチョムキン」
一面の田んぼの中、緩やかな道を上流に向かってしばらく行くと、清津川の支流、釜川につきあたる。その橋のたもと、廃材で作られたという鉄製の公園。
立ち木がそのまま利用されており、白い石が敷き詰められていて、見方によっては日本庭園のようにも見える。鉄の壁の間から、広大な緑の田んぼの一部が見える。
ここから先、橋を渡り、山道へ入っていく。
No.135 山田良+山田綾子+札幌市立大学山田ゼミ 中里重地プロジェクト/重地あぜみち学校
上り坂をしばらく行くと分かれ道となる。そこに置かれた、広場のような広々とした木のデッキ。木と木を大股で歩いてわたってみる。ところどころ欠けていて、草が顔を出している。
ここはもう一箇所。分かれ道をさらに進んだところ。脇道の奥にある。一瞬飛ばそうかとも思ったが、やっぱり寄って行くことにする。公園があり、その奥に、ひっそりとした池がある。池の向かって延びる木道を歩く。
雨が降ってきた。
木道の終点に小さな小屋が建っている。そのなかに、集落の人の名前のついたたくさんの焼き物が並べられている。とても静かで穏やかなところである。
No.136 ダダン・クリスタント カクラ・クルクル・アット・ツマリ
ひたすら坂を上る。結構な坂道なのに、道に沿ってどこまでも水田が階段状に続いている。
坂道の先、水田を横切る風車の隊列がみえる。
道端に車を停め、雨の中近づく。はじめカラ、カラ、とのどかな音を立てていたが、やがて、激しくなった雨とともにカタカタカタ・・・とマシンガンのような連打が一斉に鳴りはじめた。
よくみると、風車の人形はパラパラマンガひとコマのように一つ一つが違っていて、全体で物語をつくっているようだ。しかし、雨はどんどん激しくなり、顔もカメラもあまり上に向けられない。
見ていたのほんのわずかな間に、めまぐるしく変化を繰り返した。
No.137 ヨブ・クーレワイン 温床
No.135の分かれ道まで戻り、別の道を上る。作品は、人通りのない集落の、何でもないガレージのようなところにあった。入り口前の側溝には、きれいな水が流れていた。中にはいると、砂絵のような幾何学模様。眼がぐるぐるまわるよう。
看板がなければ、こんなところにこんな作品があるなんて、誰も気づかないだろう。その確信犯的な何気なさが面白い。自分の家の隣に外国人の作ったこんな作品が普通にあって、時折、人がやってきては眺めていく。そういう生活って、どんな感じなんだろうか。
No.138 アン・グラハム スネークパス
さらに上って、川を渡る。もう人家もない。雨で川が増水し、滝のような水である。
たどり着いたどんづまりの清田山自然公園。この季節のこの天気、人っ子ひとりいない。
そこでとぐろをまく、タイルでできた大蛇。尻尾からぐるぐると頭まで歩いてたどる。顔の先にさらにへびの列。それをたどって細い山道の上り下りを繰り返すと、名前の入ったタイルがあり、見晴らしのよいところへ出た。普段なら良い景色なんだろうが、今はただ白い風景が広がるだけだ。
雨は更に激しさを増してきた。