新潟県十日町市, 津南町
1.はじまり~1日目
ことの発端
始まりは新聞の記事だった。お盆休みを間近に控え、どこに行こうか、考えあぐねていたとき偶然読んだトリエンナーレの記事。新潟の田舎、随分と広いところで行われているらしい。越後湯沢の近くならフジロックで先月行ったから道も大体判る。嫁さんとふたり、温泉旅行のついでのイベントにはちょうどよいのでは?と、軽い気持ちで始まったのである。
計画
とはいうものの、かなり大きなイベントで、とても全部は見てまわれないことが判っていたので、ある程度は計画を立てることにした。出発の前の週の土曜日、代官山にある期間限定のアンテナショップに行き、ガイドブックと地図を買う。本当はパスポート(期間中有効なチケット)も買うべきだったのに、忘れる。
その日から毎晩、ガイドブックとにらめっこして、あれこれコースを考える。あまり欲張らず、気になるところを1つぐらいみて、あとは地元の名所を巡ろう。そんなラフな計画を立てる。ETC割引の余波で高速道路は大渋滞が予想されたが、幸い夏休みのシフトが世間より数日後にずれていたので、日本道路交通情報センターで入手した渋滞予測チャートをにらみ、お盆休み最終日の日曜日に出発、Uターンラッシュを逆走し、帰りは平日で割引が効かないが翌月曜日とする。
出発!
前日の深夜残業がたたり、6時に起きるつもりが気がついたら9時。しまったと思いつつ、前夜できなかった支度をする。支度しながら渋滞情報をチェック。先月のフジロックで泥だらけになったスニーカーは、洗ったまま靴紐を通す暇がなく、スポーツサンダルを履いて家を出る。
車で出発。関越は八王子経由にするか練馬経由にするかいつも迷うのだが、今日はUターンラッシュの影響で東名町田付近が混んでいるので、練馬経由で行くことにする。首都高、東京外環道とまわり、関越に乗る。途中事故情報もあったが、大きな渋滞もなく、なんとか塩沢石内ICに到着。国道353号線を右へ左へ激しくカーブしながら山を登り、十二峠トンネルを抜け、清津峡へ向かう脇道に入る。
清津峡
14時頃到着。まず、サイトに載っていた土産物屋でパスポートを購入する。再び車に乗って清津峡の入り口へ。
入り口の駐車場に車を停め、トンネルまでの道を歩く。「トンネル」というのは、峡谷を見るための観光施設である。道沿いには土産物屋に温泉旅館。清津峡は地元ではちょっとした観光地のようで、お盆休みの観光客がぞろぞろと歩いている。途中、川へ降りる道があったので降りてみる。サンダルのままで水につかる。冷たくて気持ちが良い。川の音を聞いていると、とてものどかな気分になる。ここだけで観光としては十分な感じだ。
No.132 山本浩二 清津峡トンネル美術館
川遊びを堪能した後、濡れた足のまま元の道に戻り、再びトンネルを目指す。トンネルの入り口で、パスポートに1つめのスタンプを押してもらう。ようやく1つめの作品鑑賞である。
トンネルの一角に、木の造形を炭化させた作品が並んでいる。古代の生き物の化石のようであり、機械のようでもある。抽象的な形なのに、古代の生き物のようである。子供、特に男の子がやたらと喜んでいる。
津南町へ
清津峡ですっかり満足してしまった我々。横浜からの長時間ドライブで疲れてしまったので、途中の作品はパスして、ひまわり広場に向かうことにする。
国道353号線を下る。いくつかもの作品が通り過ぎて行く。田舎なのでもっと悪路を想像していたのに、本当に快適なドライブである。
番外(1) ひまわり広場
快適すぎて、道に迷ってしまった。見ず知らずの道をめぐりながら、当初の計画とはぜんぜん違ったルートで、なんとかひまわり広場に到着する。駐車場には車の列ができていて、凄い人気である。ひまわり畑は駐車場からすこし歩いたところ、道からちょっと降りたところにある。一面のひまわり。
しかも、それが迷路になっている。入り口が2箇所あり、片方から入って、もう片方から出る。迷路の形は毎年違っていて、今年は特に難問だと、看板に書いてあった。本当かいな。
もし、ひまわり広場に来たら、絶対この迷路に入ってみるべきだ。上からみるひまわりも美しいけれど、背丈と同じひまわりに囲まれ、地平線まで一面のひまわり、迷路の中から見る景色のほうが、何倍もすばらしい。
ただし、迷路は本気で複雑である。真夏の太陽を浴びながら、歩いては戻りを繰り返すことになる。始めは余裕だったが、後半はかなりへばってしまった。途中、何人もの半泣きの子供たちとすれ違った。
No.104 霜鳥健二 「記憶-記録」足滝の人々
ひまわり迷路ですっかりへとへとになった我々。嫁さんはすっかりへたばってしまったが、それをなだめ、足滝駅方面へ向かう。最近はやりの「秘境駅」を見に行くためである。
ひまわり広場から坂道をひたすら下る。越後妻有は「河岸段丘」である。下り坂のあちこちに絶景ポイントがあり、そこからの光景をみると、社会科の教科書で習ったその単語が、実感として感じられ、その雄大さにただただ驚かされる。
国道117号線を西へ。途中、幹線道路とは思えない細い箇所を抜け、橋を渡って足滝地区へ。車一台分の幅の橋。向こう岸の対向車が、パッシングして先に通してくれた。地元の車だ。この地域の人柄を感じた。
作品は、集落の中、なんでもない広場に置かれていた。集落の実在の人たちのシルエット。周りを見ると、数軒の家があり、人影がみえる。この中に、重なる人はいるのだろうか。
広場に入って写真を撮っていると、足元で緑色の何かが跳ねた。アマガエルである。よく見ると、何十匹もいる。嫁さんが捕まえる。指の間から顔を出す姿がとてもかわいい。
番外(2) JR飯山線 足滝駅
カエルを追いかけて遊んでいると、警笛が鳴って、山の木々の間に列車の止まるのが見えた。やがて列車は走り出し、そのしばらく後、道の向こうから女の子が歩いてきて、どこかへ消えていった。山の上に駅がある。足滝駅である。
車を少し先に停め、歩いて駅への坂を登る。駅は、小さなホームとプレハブの待合室があるだけ。待合室の中には落書き帳があった。
なんとものどかでよいところである。天気もよく、何もかも忘れてしまいそうな気分だ。