たまの休日どこかへ出かけよう、ということで江ノ島へ。島の入り口ぐらいまでは何度か行ったことがあったが、山の頂上まで登ったのは、なんと20年ぶりである。
高校卒業の年、私は大学受験に失敗し、予備校に通うことになった。ちょうどその年横浜では、我々に合わせるように代ゼミと河合塾が相次いで開校し、駿台も事務所を開くなど、横浜戦争(または「子供の喧嘩」)と呼ばれた年で、私も代ゼミに通うこといなった。実は私は代ゼミ横浜校の第一期生なのである。そのときまだ、校舎が完成していなかったのか、入校時のクラス分け試験は藤沢校で行われた。試験は昼過ぎには終わり、時間があったので、目的もなくモノレールに乗り、終点まで行った。そこから細い道をどんどん歩いていくと、海に出た。まっすぐのびた橋をてくてく歩き、江ノ島に渡った。
それまでどうも軟派なイメージがあったのだが、初めて上陸?した江ノ島は、神社へと続く坂道にそって土産物屋や射的場が軒を連ねる、ちょうど京都の清水寺界隈に似た古風なところで、想像とずいぶん違っていた。18歳の私は、当然エスカー(江ノ島名物のエスカレータ)には乗らず、徒歩で頂上へ登った。そこは古ぼけた展望灯台と、煉瓦造りの遺跡のようなものがあるだけだった。私は高所恐怖症なので、地震がきたらあっけなく倒れるであろう展望台などいつもなら絶対に登らないのだが、なぜかそのときは、絶対に登らなければならないのだ、という気持ちになっていた。これから始まる1年間に対する憂鬱な気持ちと、まったく見えないその先の自分の人生に対する不安が後押ししていたのだろうか。
旧式のエレベータで展望台に上がる。扉が開くと、そこは囲いもなく吹きさらしで、板張りの床の切れ目から、遥か地上の緑が見えた。天気は快晴。水平線がぐるっと半周している。私はエレベータを降りた。覚悟を決めて、なんどか手すりまでたどり着き、下を覗くと、そこは断崖絶壁で、その下に海が見える。展望台は山の上だから、崖下の海面からは思っていた以上の高さである。遥か下の海を眺めているうち、ふっと吸い込まれそうな気持ちになる。自殺したいなどと思っていないのは200%確かなのに、なぜかそのとき、今にも体が勝手に動いて手すりを乗り越えてしまいそうな不安を感じ、急いで引き返そうとしたのだが、そのとき、まるで催眠術にかけられたかのように、足がすくんでまったく動かなくなった。。。
20年ぶりに登った江ノ島山頂は、すっかり変わっていました。灯台は建て直され、「遺跡」も整備されて綺麗になっていました(なんでも、歴史的に貴重な植物園の跡だったのだそうです)。灯台は丈夫そうでしたが、、、登るのはやめておきました。
あのときは知らずにそこで引き返したのですが、江ノ島の散策路はその先があったのですね。昔ながら食堂が並ぶ道に沿って山をおり、こぶのように連なるもうひとつの山を超えると、海岸へ降りる急な階段が。そこを下ると、江ノ島の裏側にひろがる岩場に出ました。いや江ノ島がこんなに奥の深い、渋くて楽しいところだったとは。すっかり参りました。みなさんも、もし機会があったらぜひ行ってみてください。とっても良いところです。