2014年8月15日 朝日新聞

従軍慰安婦報道に関する朝日新聞の検証記事「慰安婦問題を考える」(2014-08-05)について、保守系の政治家や報道機関が鬼の首を取ったかのようにはしゃいでいるが、何考えてるんだか、と思う。

この問題が拗れた原因の一端には、保守系のメディアやネットユーザがこの問題の論点を意図的に「吉田証言の真偽」「強制連行の有無」だけに絞り続けたこともあると思う。私がこの問題に関心を持って調べ始めたのは90年代中盤頃だったと思うが、その頃読んだ肯定派の主張のほとんど、たとえば吉見義明「従軍慰安婦 」(岩波新書:1995年)などでも、吉田証言は取り上げられていない。それはそうだろう。否定派が主張するように、吉田証言は真偽が明らかではないのだから。ならば実態はどうだったのか。肯定派は否定派の批判を取り込んで、より真摯な調査を進めているというのに、否定論者はみずから否定した「吉田証言」だけによりかかって主張し続けてきた。もはや私が(そしてネットユーザのほとんどが)「吉田証言」について知る手段は、否定派の主張からだけなのである。

これは相当におかしな構図だ。たとえば刑事裁判で、検察側が取り下げた証拠、しかも自分にとって不利な証拠を自ら提出して議論するなどということはありえない。(1)AはBだけに基づいている、(2)Bはウソだ、(3)故にAはウソだ、という主張は(1)も(2)も真でなければ成り立たない。しかし、(1)は肯定する側からは主張されていないのである。

こういう稚拙な、議論に勝つためだけの悪しきディベートをやり続けたことが問題を混乱させてきた思う。朝日が訂正記事を出したことで、根拠を失った否定派は今後はどんな迷走をしていくのか。