どんな服を着て行こうか。昔テレビでみた、誰だったかスターのときは、通りを埋めた群集は黒一色だった。かしこまって、でも喪服はちょっと違う気がして、会社用のスーツに黒いネクタイをすることにした。嫁さんはグレーのリボンの柄のTシャツを選んだ。さてどうか。12時過ぎ、青山一丁目から要所要所のプラカードを頼りに、青山墓地の中に伸びた列の最後尾につく。なんのことはない、みんな思い思いの格好だった。もし、この人並みを写真に切り取って何も知らない人に見せたら、どこか海に近い地方の駅で列車を待つ、そんな風景と錯覚するのではないか。私より上の世代、彼と同年代の顔が並ぶ。彼ら彼女らは、その人生経験の長さから、当然こういうときに「何が世間一般的なのか」を知っているし、若い世代と違って、その備えもあるだろう。でもそこには、喪服もTシャツも、ひとりひとりの姿としてそこにで並んでいる。そのことに思い至り、なんだか嬉しくなった。
長い時間かかってたどり着いた会場は、悲しいのに頬が緩み、でも楽しいのにホロリとし、どういう顔していいのか困ってしまう。献花台までさらに長い時間がかかったはずなのに、終わってみればあっという間だった。
出口のところには、去りがたい人たちが地べたにべたっと腰を下ろしていた。あれだけの人並みが献花をして、同じ数だけの人が出てきているはずなのに、そこは今までの混雑が嘘のようにぽっかりしていて、それがとても心に残った。
会場を後にして、まだ列に並んでいる妹夫婦に会う。人の列は青山墓地の真ん中を東から西へ横断し、大きくはみ出したあと逆方向に戻り、東の縁を南へ下り、さらに道路を渡って北上し、小さな公園でとぐろを巻き、そこからさらに乃木坂の駅まで続いていた。