トム・デマルコ、ティモシー・レスター「熊とワルツを」。変なタイトルですが、内容はソフトウェア開発プロジェクトのリスク管理に関する本。非常にためになった。リスク管理というと最近何かと話題の「危機管理」と混同しそうになるが、ここで言うリスクとは、ソフトウェア開発における納期の遅れや工数の増大などを指している。著者は、問題は必ず発生する、リスクのない仕事に価値はない、という前提に立って、リスクを最小限にするにはどうすればよいかを、統計的な手法を使って、しかし分かりやすく説いている。
私は今まで、自分の手がけたソフトウェア開発が予定通りの日数で完了したためしがないがないし、またそのようなプロジェクトを見たこともない。それは、いつもぎりぎりの予定を立てているからだと思っていたのだが、この本を読んで目からうろこが落ちた。「この作業の見積もりを出してくれ」。そう言われて私(たち)が出していた値というのは、他に何も問題が発生せず、その仕事だけを順調にこなしていけば達成できる日数だったわけだが、それは本書によれば、ナノパーセント日=仕事が完成する可能性が0%ではなくなる最初の日であって、それはまさに「完成する可能性がほぼ0%の日」だったのである。そんな予定が、うまくいくはずはなかったのだ。
それからこの本、リスク管理の本質を語るため、冒頭に「信念の倫理」と題する、歴史的な演説の話が出てくるのだが、この話が非常に印象深かった。この演説の内容は付録として巻末に全文が収められており、単なる逸話以上の扱いになっている。これは深読みかもしれないが、プログラム開発技法の本という範疇を超えて、著者の何らかの意図があるように思えるのである。